読書家のための偏見作品紹介

主に小説の紹介、書評で人生を設計したい

<書籍紹介>ショートショートの源流「さあ、気ちがいになりなさい」

ショートショートというジャンルは教科書に載るほどに認められた。

星新一という日本SFの祖によってだ。



好きな作家ランキングではトップ10圏内の常連作家であり、その人気が色あせることがないのは、古さを感じさせないように書くという作者の意図があってこそだ。

たとえば、お金の単位を具体的に書かない。人の名前をイニシャルにし、文章の中で目立ってしまうと言う理由でアルファベットをカタカナ表記にする、などである。



ショートショートを書く難しさは、押井守がたびたび熱弁している。

映画監督になる前、作家を目指していたころの押井が、ショートショートなら書けるだろうと挑戦して、あまりの難易度に断念したというのだから恐ろしい。



なるほど、確かに自分には短編小説だって書くのは難しそうに見えるので、短編というのには長編にない緻密が要求されるのだろうが、それを大いに感じさせてくれる短編集がある。

それを紹介しようというのが本記事なのだ。みな心して読んでくだされ。

作品紹介

内容(「BOOK」データベースより)
記憶喪失のふりをしていた男の意外な正体と驚異の顛末が衝撃的な表題作、遠い惑星に不時着した宇宙飛行士の真の望みを描く「みどりの星へ」、手品ショーで出会った少年と悪魔の身に起こる奇跡が世界を救う「おそるべき坊や」、ある事件を境に激変した世界の風景が静かな余韻を残す「電獣ヴァヴェリ」など、意外性と洒脱なオチを追求した奇想短篇の名手による傑作12篇を、ショートショートの神様・星新一の軽妙な訳で贈る。

奇想というのがSFの本質であるならば、奇想SFの元祖はブラウンだと自分は断言する。

これほどの奇想と、それを物語として表現する技量。

なにより引き込まれる独特な世界観は圧巻で、ほかに類など、未来永劫見ないだろうと思わされる。



しかし世界観と言えば、設定以上に大切なのは文章表現で、つまり翻訳が星新一であることは大きく影響しているということだ。

星新一は翻訳もやっていたのか、と思う方。星の文章の巧みさは、オリジナルよりも翻訳の本書の方が感じられるだろう。





短編の読了感

短編の、あるいはショートショートの醍醐味は、やはりたびたび感じられる読了感にあるのだろうが、そういう意味で、本書は並々ならぬ読了感を得ることができるだろう。

ほかと一線を画しているのは、通常は人間の心理描写から感ずるはずの読了感を、本書は世界観から感じるところにある。

短編であるのに数年が経っていたり、世界が大きく変わってしまう話の中では、別の人間の人生をともに生きたような気になってしまう。

つまり長編で感じるような読了感を短編で感じることに、独自性があるのだ。



またストーリーが巧みというのもあり、まさかそう終わるのかという結末にも、激しく感情が揺さぶられるので、それを落ち着かせようとするときにも独特な余韻を感じるのだ。


SF的奇想

ブラウンの最大の特徴は奇想である。

わけのわからない知性体、人間、世界観設定などに驚くのだが、それをあたかも本物のように思えてくると、どんどんと物語に引き込まれる。

このウソを本物っぽく見せるのがSFの本質であり、つまりSFが設定が難しいために敬遠されることがあるのだが、その設定も本物っぽく見せるために緻密になっているだけで、大事なのはそれでどんなウソをついているのかを見抜くことだ。

さらに言えばブラウンの設定は難しくない。それが星新一と類似しているところであり、ここでも勧められる特徴のひとつである。




まとめ

短編は読了感。

それを知っているものならば、本書の価値と完成度の高さが理解できるはずだ。

読書の新しい側面を、本書から見つけ出してもらいたい。