Apr ,2020 読書日記まとめ
コロナで外出自粛ばかりが促進され、ようやく人間の本質が垣間見えるというか、つまり家の中でひとりで何ができるかが人生の本質である。
正直この時期は、いわゆる人間の成熟度という意味で、大きな差が生まれているんだろう。
少なくとも携帯いじって一日を終えている若者が多いようだから、まあそういうやつはどうしようもない。
思うに最終的には何事も、本に頼るしかないと思うよ。
個人的には文学か専門書かノンフィクションが人生を豊かにしてくれると思う。
俺はノンフィクション嫌いだけど、最近はまたいろいろと探しているので、面白かったら紹介しよう。
しかし出版界もコロナ打撃を受けているようだ。
悲しいツイートが多い。
あー、はい。ツインスター・サイクロン・ランナウェイですが、過去に出した本の中で一、二を争う初期反響をいただいているにもかかわらず、いまだ初版です。これは私が売れてないというより、それだけ紙本の売り上げが落ちているということでしょう。各自、推しの紙本を買ってください。
— 小川一水 (@ogawaissui) 2020年4月28日
発売1週間以上たっても重版かからないの久しぶりだ...書店は今6割クローズしているらしく「リアル店舗」のメディア力を改めて感じてる。書店好きとしては書店をぶらつく楽しみが生活にないのもつらい。そんな中での癒しがコンビニの雑誌コーナー。付録つきの雑誌は体験と読書両方満たしてくれる。
— はあちゅう / 新刊「子供がずっと欲しかった」発売中 (@ha_chu) 2020年4月28日
書店も危機。そして取次はたぶんもっと危機。出版社も危機。そして全てを葬り去った後に独り勝ちするのがAmazon。 https://t.co/wzwj9eCuWa
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) 2020年4月28日
気を取り直して今月の報告へ。
1位、鳥の歌いまは絶え
- 作者:ケイト・ウィルヘルム
- 発売日: 2020/04/30
- メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
シェナンドアの一族に生まれ、生物学者を目指す青年デイヴィッドは、あと数年のうちに地球上のあらゆる生命が生殖能力を失うことを知る。一族は資産と人員を集結し、クローン技術によって次世代を作り出すための病院と研究所をシェナンドアに建設した。動植物のみならず、人間のクローニングにも成功したデイヴィッドは、クローンたちが従来の人類とは異なる性質を帯びていくことに危惧を覚えるが……。滅びゆく人類と無個性の王国を築くクローンたち、それぞれの変遷を三部構成で描く、ヒューゴー/ローカス/ジュピター賞受賞作、待望の復刊。
ウィルヘルムという作家がいるのは知っていた。
SF黄金世代、つまり今の50代男性から、伝説的作家としてよく名前が挙がるからだ。
しかし読んだことはなく、特に最近のSF界ではまったく名前を聞かないので、既に古くなった作家だと思って無視していた。
そんなさなか、それもコロナで本が売れない時期に、まるで注目を避けようとしているかのようにひっそりとウィルヘルムの本が復刊したのは、やはり意図的な策略を感じるのだが、気のせいか。
このツイートを見ていなかったら、本当に見逃していたと思う。
そして東京創元社からは、待望の復刊をいただきました。ケイト・ウィルヘルムの『鳥の歌いまは絶え』。繰り返される破滅と再生の物語。これぞSF。本書をきっかけに日本でのウィルヘルムの再評価が進みますように。 pic.twitter.com/nDIP0GOn9q
— Mitsuyasu Sakai/堺三保 (@Sakai_Sampo) 2020年4月26日
そして俺に買う決意をさせたのが、帯にも書かれたキャッチコピー。
ティプトリー、ル=グィンに並び称されるSF作家の代表長編、待望の復刊
滅亡に瀕する人類、無個性と共感が支配するクローンたちの王国。
ヒューゴー/ローカス/ジュピター三賞受賞
ティプトリーといえば、初めて保守派のSFファンに、女性SF作家の実力を知らしめたことで知られるSF作家である。
もともと「女性にはSFは分からない」という固定観念は、日本SFにもあったそうだが、本場のアメリカではその差別がより顕著だったらしく、女性SF作家というだけで読んでもらえなかったそう。
そんな中でティプトリーは人気を博したわけだが、その理由は、ティプトリーは性別を公表していなかったからだ。
だからティプトリーが大好きだったおっさんファンたちも、ティプトリーが女性だと分かったときには腰を抜かして、女性SF作家への差別をやめたという逸話がある。
基本的にティプトリーは多彩で、SFらしくない小説もたくさん書いていたが、俺はファンというほどの好みではない。
しかし代表作の「たったひとつの冴えたやりかた」は、SFとか関係なしに面白かったし、好きだ。
- 作者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
- 発売日: 1987/10/01
- メディア: 文庫
「愛はさだめ、さだめは死」は、人間が出てこないという驚異の作品で、高校生の頃の俺に新しい読書の境地を開いてくれた。
- 作者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
- 発売日: 1987/08/01
- メディア: 文庫
そういう意味で、ティプトリーはSFとして好きというわけではないが、俺の読書観にかなりの影響を与えてくれたと思う。
ル=グィンは「SFの女王」と称された元祖女性SF作家だが、俺はまったく面白いと思ったことがない。
「闇の左手」「所有せざる人々」などで知られる大御所だが、俺はSFよりもファンタジー作家だと思っていて、ファンタジーが苦手なので好みではないのだ。
- 作者:アーシュラ・K・ル・グィン
- 発売日: 1978/09/01
- メディア: 文庫
- 作者:アーシュラ・K・ル・グィン
- 発売日: 1986/07/01
- メディア: 文庫
実際ファンタジーの著作も多く、ファンタジー好きに影響を与えた印象がある。
ル=グィンに影響を受けた人物として、その代表格が宮崎駿だ。
宮崎駿は最も好きな物語としてたびたび、ル=グィンの「ゲド戦記」をあげている。
実際に「ゲド戦記」は宮崎駿の息子によって、ジブリでアニメ映画化されたが、俺はあれも面白いとは思わなかったので、まああれが好きな人は楽しめるのではないかと思う。
とまあ少し話が逸れたが、つまり俺がいいたいのは、この2人と並び称されるということは、相当にすごい女性SF作家なのだろうと俺は予想したということ。
そして俺はかつて、女性SF作家で面白いと思った人はほとんどいなかった。
しかし俺は何事にも保守派にはなりたくないから、「女性の書くSFは面白くない」という俺の中の固定観念を、はやく壊したかったのだ。
その意味で、ウィルヘルムはすごかった。
面白いし、SFらしい果てしない物語で、なにより新しい。
少なくとも男性には書けないと、強く思わせられたが、今の女性SF作家でも、このような本を書けるとは思えない。
つまりウィルヘルムがすごいのだ。
本当に感動した。
久しぶりに読書に新しい価値観を植え付けられた。
こんなにすごいウィルヘルムがなぜ無視されているのかと疑問に思ったが、調べたところ、世界各国で彼女の著作がたくさん翻訳されているにも関わらず、日本ではこの本しか訳されていないのだ。
さらに、この作家のことを知っている人自体、日本の翻訳家にも少ないらしく、翻訳が進まなかったようなのだ。
本当に残念。
つぎに「翻訳してほしいのは誰」のアンケートがハヤカワで出たら、ウィルヘルムを挙げよう。
ちなみに発売日は4月30日らしいのだが、俺が28日に書店に行ったときに既に売っていて、買うことができたのはラッキーといえる。
2位、白の闇
- 作者:ジョゼ・サラマーゴ
- 発売日: 2020/03/05
- メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
突然の失明が巻き起こす未曾有の事態。「ミルク色の海」が感染し、善意と悪意の狭間で人間の価値が試される。ノーベル賞作家が「真に恐ろしい暴力的な状況」に挑み、世界を震撼させた傑作。
ノーベル文学賞受賞作家、サラマーゴの代表作。
まあノーベル賞受賞作家とはいっても、特にヨーロッパで人気が出て受賞した作家とかになると、日本で1冊も翻訳されていなかったりする。
例えば2017年に受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチとかは、受賞時点では日本に1冊も翻訳されておらず、今さらになって日本でコミカライズが進んでいる。
- 作者:小梅 けいと
- 発売日: 2020/01/27
- メディア: コミック
この漫画は俺の大好きな冨野由悠季(ガンダムの生みの親)が宣伝帯を書いていたので買ったのだが、衝撃を受けすぎて今では何回読み返したか分からない。
そういう意味で、サラマーゴも日本ではほとんど知られていないし、今さらになって新刊で翻訳物が出たので、興味本位で買ってみた。
あらかじめ言っておくが、俺は基本的にノーベル賞受賞作家をくだらない作家だと思っている。
これはレイモンド・チャンドラーのエッセイを読んだことがきっかけで、チャンドラーによるとノーベル文学賞とは、「審査員の好みが反映されただけの、読む気も起きない三流作家に与えられる内輪の文学賞」だそうなのだ。
俺の大嫌いな大江健三郎が、ノーベル文学賞の授賞式で「もし三島由紀夫や阿部公房が生きていたら、彼らがもらっていただろう。彼らが早くして死んでしまったから、わたしがもらっただけ」といったらしいが、今さらお前がいわなくなって、そんなことはみんな分かっている。
というか、ノーベル賞受賞に際して天皇が褒章をくれるというのに断った無礼者のくせに、ノーベル賞だけもらっておこうという方が傲慢である。
あいつのような戦後民主主義者は、自分が評価されたいの一心でノーベル賞をもらい、すぐに戦争を批判するゴミクズばかりだから無視しよう。
とまあこのように、自分の国の受賞者を見ても、ノーベル文学賞なんて大したことないのは分かる。
そうして読んだ割には、なかなか面白かった。
ただ後半が苦痛だった。
「はやく読み終わりたいよお」ってどれくらい心で叫んだか分からない。
版占率(1ページあたりの文字数)がものすごく高く、というか段落がほとんどなくて、文字が端から端まで埋まっていて、読むのがつらかった。
あとは単純に文学しすぎて、エンタメ性に欠けたから読むのが大変だった、という感じ。
ただノーベル賞をとるようなやつって、少なからず誰でも楽しめるような本が多いから、こういうブログではおすすめに載せやすいんだよね。
正直、この2番のポジションは盛りすぎかな、とも思うのだが、せっかく新刊で翻訳されたものなのですすめておこう、と思った次第である。
3位、七人のイヴ
- 作者:ニール スティーヴンスン
- 発売日: 2020/04/02
- メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
ある日突然月が七つに分裂した。その後の月のかけら同士の衝突によって、2年後には無数の隕石が地表に降りそそぐ〈ハード・レイン〉が起き人類は滅亡する。各国政府は、人類の遺伝情報のサンプルや文化遺産のデータを未来に残すため、国際宇宙ステーション(ISS)を核とした“箱舟計画(クラウド・アーク)”を立案した。計画遂行のため、宇宙で生き残る1500人を選抜するべく各国は苦渋の決断を迫られる。人類の未来を俯瞰する破滅パニックSF大作!
単行本が出たのが2018年6月ごろ。
書店で見かけたとき、まずスティーブンスンは「クリプトノミコン」がめちゃくちゃ面白かったことを思い出し、相変わらず面白そうなやつを書いてるなあというのが第一印象。
次いで気になったのが、宣伝帯。
もともと俺は、初めて見る作家の本を買うかどうか決めるのに、「あとがき」と「宣伝帯」を見て決める。
だから宣伝帯の効力は、俺の中では大きいのだが、その帯で宣伝文を寄せていたのが、ビル・ゲイツとバラク・オバマ氏であった。
特にオバマの「人類は簡単には死なない」の一文はよく覚えていて、ぜひとも読みたいと思わせられたのだが、文庫になるまで時間がかかった印象だ。
もともと単行本では全3巻が半年以上をかけて出版されたのが、文庫では上下が同時に出た。
久しぶりに元祖SFが読めてよかった。
あらすじを読んで面白そうだと思った人は、素直に楽しめると思う。
まあ「白い闇」よりは面白かったよ。間違いなく。
4位、少年トレチア
内容(「BOOK」データベースより)
都市のまどろみは怪物を育む。みんなが云う。悪いのはトレチア。殺したのはトレチア――謎の少年が囁く死の呪文「キジツダ」とは? 新興住宅地で次々おこる殺人事件。目撃された学帽と白い開襟シャツの少年は何者か。都市伝説を通して“恐るべき子供たち”の真実を捉え、未来を予見する異形のミステリ長篇!
なんか最近、津原の出現率が高い。
だから多くは語るまい。
面白かったよ。
5位、ツインスター・サイクロン・ランナウェイ
内容(「BOOK」データベースより)
人類が宇宙へ広がってから6000年。辺境の巨大ガス惑星では、都市型宇宙船に住む周回者(サークス)たちが、大気を泳ぐ昏魚(ベッシュ)を捕えて暮らしていた。男女の夫婦者が漁をすると定められた社会で振られてばかりだった漁師のテラは、謎の家出少女ダイオードと出逢い、異例の女性ペアで強力な礎柱船(ピラーボート)に乗り組む。体格も性格も正反対のふたりは、誰も予想しなかった漁獲をあげることに――。日本SF大賞『天冥の標』作者が贈る、新たな宇宙の物語!
伊藤計劃がSFに残したものは、思うに一番は百合を持ち込んだことなのではないか。
というか、この評価は最近のSF界で騒がれていて、明らかに「ハーモニー」以後で百合が増えたというのだ。
そんな中で、おそらく百合SFを正式に押し出して書いたのは、本書が初めてではないだろうか。
著者は日本SFの代表格、小川一水。
そもそも彼はなんでも書けるので、百合を書いてくれと頼まれたから書いた感がすごい。
実際、この本はとある短編を加筆して長編にしたもので、短編の時とはタイトルすら変わっていない。
その短編が収録されているのが、「アステリズムに花束を」という短編集。
アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)
- 発売日: 2019/06/20
- メディア: 文庫
この本、キャッチコピーは「世界初の百合SFアンソロジー」というもの。
あたりまえだ。世界には「百合」という言葉がないのだ。
いや、中国には日本の「百合」が逆輸入されている。
それを教えてくれたのが、このアンソロジーに参加した中国人作家、陸秋槎だった。
以下は陸氏のインタビューの言葉である。
中国では百合に「軽百合」と「真百合」という区別があります。前者は『ゆるゆり』のようなライトな話、後者は『やがて君になる』のような、はっきり恋愛関係を結ぶものがそう呼ばれています。この呼び方はネットでかなり浸透していますね。
この引用元を貼っておきます。
ちなみに、この人のインタビューはマジで面白いので、ぜひ読んでみることをおすすめします。
この下のやつとかも、よかったら。
話を戻そう。
つまり百合SF用に書かれたものだから、申し分なく百合なのだが、あんまりエロくなかったのが残念。
まあなんというか、これは百合の入門書でもあって、心が温まったのでよしとしよう。
SFはキャラクター性が薄いことで批判されがちだから、まだまだSFに百合とか萌えとかは慣れていないのだ。
今後を期待しよう。
これでエロかったら、順位が2位くらいまで急上昇していたと思う。
まとめ
今月はSF色強め。
家にこもっていたから、話は壮大じゃないと楽しめなかったのだ。
これで「ペスト」とかリアルなもの読んでも、だったらニュース見た方が面白くね、というのが俺の意見。
現実をつきつけられているときほど、非現実的なものを読みたい。
そういうのに、SFの想像力は向いているのかもしれない。