<作家紹介>日本に一人しかいないと強く感じさせる作家「山尾悠子」
しつこいようだが、村上龍のエッセイが終わったことに対する気持ちの整理が、未だにできていないようだ。
ようだ、というのは、つまり俺自身は過ぎたことだと思っているはずなのに、俺という脳の思考はそうなっていないからだ。
「俺自身」と「俺の思考」を対比させていることは、少し哲学的なものがあって難しく聞こえる者もあるかもしれないが、要因となった実際の出来事を聞けば、たいした話ではないことが分かるだろう。
暇つぶしに携帯をいじっていたときのこと。
まあ無意識のうちにYouTubeを開いたのはいいものの、何を検索しようか迷っている。
考えてもいないのに、俺は「村上龍」と打っている。
「む」の予測変換は常に「村上龍」。
なぜか村上龍の発売情報のサイトがブクマされている。
まあ、そういうこと。
そしてそのYouTubeなのだが、俺が見たのは第144回の芥川賞に関する動画。
それを見ていて気になったのが、1:43~ の会話。
壺井「龍さん、昔その~新人を選考するときに、なんかその~自分に刺激のあるような、いままで読んだことないような小説を読みたいとおっしゃってた――――」
村上「小説としてはないです」
壺井「えっ?」
村上「たいてい読んだことあるようなのばっかり。いやあ~これは読んだことない、ってのはないんです。小説ってのは」(以下略)
ほう。
なるほど。
さすが龍。
辛辣だ。
そこで俺は考えてみる。
たしかにないなあ。
まっさらな作風と文章。
たしかにないなあ。
いや待てよ。
筒井康隆の書評エッセイで紹介されていて、実際俺が読んだときにもすごい異彩を放った作風を感じて、思わず「これは読んだことない」って叫びそうになった作家がいたような。
で、調べたところ。
なんとそいつ、去年に日本SF大賞をとっていやがった。
どうして忘れていたかというと、作家歴が40年近いにもかかわらず、異常なほどに寡作で、作品数が少なすぎるんである。
しかし日本SF大賞をとったことで、少なくともSFファンからは忘れられなくなっただろう。
そういう大きな賞には無縁だったから、40年にしてようやく、といったところ。
もし読んだことない小説を求めるなら、「この人を読め」という作家を紹介することにする。
作家紹介
名前 山尾悠子 やまおゆうこ
生年月日 1955年3月25日
出身 岡山県岡山市
学歴 同志社大学文学部国文科 卒業
デビュー作 「夢の棲む街」(早川書房 1978年)
この記事のタイトルは、有名書評家の石堂藍の表現にちなんだものだ。
曰く、「山尾は日本に一人しかいないと強く感じさせる作家であり、完全に時流から離れた真の幻想小説をかける作家のひとりである」
山尾悠子という作家があまりに異端過ぎるとはいえ、その作風は案外分類しやすく、徹底した幻想文学である。
考えてみれば、幻想文学以外で完全に新しいという作風は形成しにくいだろう。
たとえば最近で読まれている幻想小説では森見登美彦などがいるだろうが(俺は読んだことない)、聞いたところによると、ジャンルは幻想小説の中でもファンタジーであるらしい。
幻想文学自体がひどく曖昧な概念で、曖昧な物を幻想小説としてくくっているのだから、なかなかジャンルが思い描けない人も多いだろう。
しかしファンタジーとの違いを説明するのは簡単で、なぜならファンタジーはほぼすべてのパターンを、日本では宮崎駿が広めてくれたからだ。
具体的には、
時代ファンタジー → 風の谷のナウシカ (現在ではSFにも分類)
異世界ファンタジー → 天空の城ラピュタ (19世紀アメリカ)
(世界観のモデル) ハウルの動く城 (19世紀イギリス)
もののけ姫 (近世 日本)
幻想ファンタジー → となりのトトロ(森見登美彦の作風はトトロ系)
(現実の中に 千と千尋の神隠し (神話ファンタジーに分類)
あり得ない物を描く) 崖の上のポニョ
ファンタジーはすべて、この3つのどれかに分類できるのだ。
たいして幻想文学は、情景を描く。
景色だけを書き連ねるといってもいい。
そこにストーリーを持ち込んだのが最近の幻想文学作家だが、それでも山尾悠子は異端をゆく。
山尾悠子がすごいのは面白いところ。
やはり評価される作家は面白くなければならない。
景色だけが描かれても、読者に与える物は「おもしろさ」よりも「感動」だろう。
作風
正直なところ、説明したくない。
そして、説明できない。
まあ理由はたくさんあって、
山尾悠子、それ自体の作風がむちゃくちゃさまざまだから。
俺自身が幻想小説について詳しくないから。
山尾悠子の作品は難しいから。
少なくとも読む人が納得する説明はできません。ごめんなさい。
そもそも幻想小説で俺が読んだことあるのなんて、山尾悠子と泉鏡花だけ。
しかしそうか。泉鏡花と比較してなら少しは説明できる。
泉鏡花は日本の幻想文学の元祖的存在で、山尾悠子と無関係では当然ない。
山尾悠子は大学の専攻について、谷崎潤一郎と泉鏡花で悩んだ末に泉にしたと、インタビューで言っていた。
泉鏡花と言えば、やはり体言止め。
あまり公的な評価ではないだろうが、読んだ人はたいてい「体言止め」が印象的と答えていて、俺もそのひとり。
そして山尾悠子にも体言止めが結構見られる。
インタビューでも質問者に訊かれた際、そうなんですよお的なことを言っている。
ああ、でも内容について、泉鏡花も無茶苦茶で分かりにくい内容だから、対比しようがねえわ。
泉鏡花読んだことある人なら分かるでしょ。
あれ他人に説明しろって言われて、できる自信がある人なんていないだろうから。
そして山尾悠子は泉鏡花の100倍くらい独特でおもしろくて、あとは現代語だから読みやすい。
そんな感じでいいかなあ。
作品リスト
俺が読んだことあるやつから。
- 作者:山尾 悠子
- 発売日: 2019/03/08
- メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
死火山の麓の湾に裸身をさらす人魚たち、冬の眠りを控えた屋敷に現れる首を捧げ持つ白い娘…、「歪み真珠」すなわちバロックの名に似つかわしい絢爛で緻密、洗練を極めた美しき掌編15作を収めた物語の宝石箱。泉鏡花文学賞に輝く作家が放つ作品は、どれも違う鮮烈なヴィジョンを生み出す。ようこそ!読み始めたら虜になってしまう、この圧倒的な世界へ。
文庫としては最新かな?
入門者向け。なぜなら短編集だから。
それだけです。中身はフランス料理よりぐちゃぐちゃなので、説明はご勘弁。
- 作者:山尾 悠子
- 発売日: 2012/01/01
- メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
冬のあいだ眠り続ける宿命を持つ“冬眠者”たち。ある冬の日、一人眠りから覚めてしまった少女が出会ったのは、「定め」を忘れたゴーストで―『閑日』/秋、冬眠者の冬の館の棟開きの日。人形を届けにきた荷運びと使用人、冬眠者、ゴーストが絡み合い、引き起こされた騒動の顛末―『竃の秋』/イメージが紡ぐ、冬眠者と人形と、春の目覚めの物語。不世出の幻想小説家が、20年の沈黙を破り発表した連作長篇小説。
長編。
一応、俺の中では山尾悠子ベスト。
上のやつと合わせて、この2つしか読んでないけど。
それだけ。中身はアフリカ料理よりも味が分からないので、説明はご勘弁。
- 作者:山尾 悠子
- 発売日: 2014/11/10
- メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
「誰かが私に言ったのだ/世界は言葉でできていると」―未完に終わった“かれ”の草稿の舞台となるのは、基底と頂上が存在しない円筒形の塔の内部である“腸詰宇宙”。偽の天体が運行する異様な世界の成立と崩壊を描く「遠近法」ほか、初期主要作品を著者自身が精選。「パラス・アテネ」「遠近法・補遺」を加え、創作の秘密がかいま見える「自作解説」を付した増補決定版。
これは読んだことないです。
読みたいとは思いますし、この記事書き終わったらアマゾンで注文しようと思ってます。
きっと韓国料理よりも赤いんだろう。いや、色なんてないか。
内容(「BOOK」データベースより)
庭園で火を運ぶ娘たちに孔雀は襲いかかり、大蛇うごめく地下世界を男は遍歴する。伝説の幻想作家、待望の連作長編小説。
何この説明、てきとー過ぎでしょ。
「BOOK」データベースでこんなの初めて見たわ。
それくらい難しいのか、説明が。
気持ちは分かる。だから俺も読んでみたいと思う。
これが冒頭で言った、昨年の日本SF大賞受賞作。
このひと、なぜかSF雑誌でデビューしたんだよね。
まあSFってなんでもありなので、とうぜん受け入れます。
というか幻想文学の発表の場がなかっただけかな?
これはまだ単行本なので、俺は文庫になったら買います。
ちなみに詳しく調べたところ、これは8年ぶりの連作長編で、
第69回芸術選奨文部科学大臣賞
第39回日本SF大賞
第46回泉鏡花文学賞
の三冠を達成したそうです。
言葉もねえわ。
ジャンルなんて、この人の前ではくだらない。
内容(「BOOK」データベースより)
小説と人形と。まず山尾悠子による「小鳥たち」という掌篇が書かれ、登場する小鳥たちを人形作家の中川多理が創作した。それを受け『夜想#中川多理―物語の中の少女』に続編「小鳥たち、その春の廃園の」が書かれ、再び呼応して新たな人形が作られた。さらに、最終章「小鳥の葬送」が書き下ろされ…。母、娘、そして侍女…風景も時間も揺らぎながら紡がれていく、芳しく神々しい幻想譚。
これも単行本だが、これはまったく知らない。
文庫になったら読もうかな、ってくらい。
いやあ、作品が、これでほとんどなんだよね。
他のはとうの昔に絶版で、本人が文庫にしたがらないようなので、誰も読んだことないでしょ。
知名度と作品数の差にびびる。
にわかにも手を出しやすい作家だね。