読書家のための偏見作品紹介

主に小説の紹介、書評で人生を設計したい

<書籍紹介>平和ボケした日本人へ、戦争の対義語は平和ではない「戦争と平和」

ようやく出ましたね。



戦争と平和」の新訳



実に十五年ぶりとのこと。



自分が読んでいた新潮文庫の工藤精一郎訳のやつで、かなりいい訳だという印象だったんですが、やはり海外古典ならではの訳比べという楽しみを経験しておかないと損ですよね。

それに光文社の訳はすごく信頼しているので、楽しみに待っていました。



やはり古典翻訳の出版社って最強なんじゃないかな。

作品紹介

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
始まりは1805年夏、ペテルブルグでの夜会。全ヨーロッパ秩序の再編を狙う独裁者ナポレオンとの戦争(祖国戦争)の時代を舞台に、ロシア貴族の興亡から大地に生きる農民にいたるまで、国難に立ち向かうロシアの人びとの姿を描いたトルストイの代表作。

言わずと知れた世界文学の名著

その影響を自分なんかが語ると失礼に当たる…………



とりあえず日本人として、日本への影響だけを挙げさせてもらいますと、

森鴎外幸田露伴が重訳までして熱心に翻訳
与謝野晶子が「君死にたまふことなかれ」を書くきっかけを与えた
小学校しか出ておらず、理解できない難解な文学を嫌っていた若き宮沢賢治に、海外文学への興味をもたせた



鳥肌ものですね…………



東大卒の森鴎外から教養のない宮沢賢治まで…………(まあ宮沢賢治は今の東大生より賢かったんでしょうけど)

ここまで万人向けだとさすがに魔力を感じますね。





基礎知識

著者のレフ・トルストイなんですが、意外に知らない人が多いんですよね。

フョードル・ドストエフスキーイワン・ツルゲーネフと並び、19世紀ロシア文学を代表する文豪です。



特にドストエフスキーなんか本読んでないひとでも知ってるのに、どうして…………






…………名前のインパクトが薄いのか(偏見)!



ドストエフスキーとかツルゲーネフとか、日本人には強烈な名前に思える中で「トルストイ」ってちょっと地味というか、ロシア人って感じの名前じゃないですもんね。



…………作家のペンネームって大事だ…………

自分のペンネームももう少しマシなのにしておけばよかったと思わされる。




しかし戦前の人が評価したからって、二十一世紀にも通じるのか? と懐疑的な方へ。

じつはトルストイ、その評価を盤石にしたある調査があります。



2002年にノルウェー・ブック・クラブが選定した「世界文学最高の100冊」に『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『イワン・イリッチの死』が選ばれ、2007年刊行の『トップテン 作家が選ぶ愛読書』では、世界文学史上ベストテンの第1位を『アンナ・カレーニナ』が、第3位を『戦争と平和』が獲得している…………



まさしく人類史上最強の小説家じゃないですかね。



今誰もが手に取っている小説、そのすべてに影響を与えたと言っても過言ではない文学史最高級の偉人。



自分だって読んだ当初は

俺のために書かれたんじゃないのか…………

って思うくらい好みどストレートで面白かったんですが、読書家はみなそう言いますね



世界中の文学が散々に影響をうけまくっていますから、いくら好みの違う読書家同士でも、たどっていけばここにたどりついてしまうんですね。





あらすじ

舞台は19世紀前半のナポレオン戦争の時代。

世界最高の文学と言われていながら、意外にもジャンルは歴史小説なんですね。



時代感覚が分からない方へ。

ナポレオン戦争や物語の舞台 1805~1813年
戦争と平和」執筆     1865~1869年




大体半世紀前を書いているんですね。



そしてこれ、物語では大きく分けて三つの物語が同時進行するんです。

西欧の歴史的背景の描写(アウステルリッツの戦い、ボロディノの戦いなど)
三つのロシア貴族の興亡(ボルコンスキー公爵家、ベズーホフ伯爵家、ロストフ伯爵家)
個人の恋愛(ピエール・ベズーホフとナターシャ)



このうち、恋愛を描かれるピエール・ベズーホフは著者トルストイの分身と言われ、自身の自伝的要素も入っていると言われています。

全ジャンルに影響を与えたというのが分かりますね。

現代のジャンル分けからすれば、さまざまなジャンルが混同していますから。



ややこしいと思った方。まだまだ序の口です。



実はこの小説、登場人物が異常なほどに多い



自分も読んだときには衝撃をうけ、メモをとりながら読み進めたのですが(これが結構楽しい)、調べたところなんと、全部で559人も出てくるそうなんですね。



ギネスものじゃないですかね、これ。



さすが世界最高…………ただじゃ読ませてくれない。



でもそれが楽しいんですよね。

人物相関図とか、できあがったやつは今でも大事にとってありますし、何度も書き直してようやく完成したときには、ものすごい快感でしたから。




教えられることはこれくらい。

少しでもあらすじを教えろと言われると、まず設定だけでここまで書いた文量と同じくらいかけて説明しなければならなくなるので、どうかご勘弁ください。





おわりに

今回発売された新訳は、2021年の頭にまでかけて、全六巻の予定だそうですね。

一巻を買いましたが、単語一つ一つをものすごく詳しく書いてくださっていますし、人間相関図もありました。

自分が読んでいた新潮文庫は全四巻で、分量も短い分、光文社と違って設定の説明が書いていない。

しかし自分はわからないことがあれば、その都度自分で調べて自分専用のメモを作る、という方が好きなので、読んでいて楽しいのは新潮でした。設定を読むために物語が止まるのも、少しストレスですし。



光文社の発売に合わせてこの記事を書きましたが、自分に合う方を買うべきだと思います。

どちらも現代口語が特徴のわかりやすい訳。

楽しめることには変わりないので、ぜひ読んでみてください。

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

戦争と平和(一) (新潮文庫)

戦争と平和(一) (新潮文庫)

  • 作者:トルストイ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 文庫